Scotland #21

 

 
日本のミュージックシーンに『Life is Like a Boat』という歌とともに彼女がデビューしたとき、ぼくは大学卒業後に就職せず、詩で生計を立てるという大きな博打を打ったところだった。大人たちは本当に冷ややかだったし、詩に携わる人たちの視野も偏っているようにぼくには見えて、四面楚歌だった。そのときに、同じように舟を漕いでいる人がいるんだなと、とても勇気づけられた歌だった。
今年の夏、偶然にも共通の友人がいることがわかった。さらに偶然は重なるもので、今年、彼女はUKに移住していた。普段なら、自らこういう糸をたぐり寄せるのは好きじゃないのだけど、あのとき本当に一緒に戦ってくれた歌だったので、いつものポリシーをかなぐり捨てて、連絡を取らせてもらい、いざロンドンへ会いに行った。
詩で生計を立てるためにクリアしていかなければならないことと、音楽のそれとは、それぞれが置かれている状況があまりに違いすぎる。だけれど、最も肝心なのは、ただひたすら「いい詩を書く」ことであり、「いい歌を歌う」ことだと思う。それこそが「私が私でありつづける」ことへ導いてくれる。その詩が、その歌が、ある日、人の心を強く揺さぶる。そういうシンプルな事実から、ぼくらクリエーターたちは逃げちゃいけない。
聖堂で開催されていたオープンマイク会場で、帰宅の時間が迫った彼女と、きっと一緒に何かやりましょうと言って、別れた。翌日、彼女の新譜を聴きながら、エディンバラに向かう列車に乗り込む。ボートもオールも10年前とは変わったかもしれないけれど、まだ川を漕いでいる。嬉しかった。窓の外では、ちょうど夕闇のなかを、ツイード川が流れていた。

 

 

 

 

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