Scotland #05

 

スコットランドを訪ねる旅も折り返しに到達。残り10日となった。この旅と滞在を充実したものにしてくれている人たちのことを触れたい。Rachaelは「Hannah Zakari」のオーナー。昨年3月の滞在から日本に帰ったのち、この個展を開きたいというお願いを快諾してくれた恩人だ。店名は、日本語の「花盛り」に由来する。昨年の滞在中にぼくが店に訪れたのは、英語発音による表記の、だけれど確かに日本語的な、この妙な店名に引かれたから。詩人が集まりたがる鬱蒼とした洞窟感がまったくないこと、日本人アーティストの商品を扱っていたこと(今はどうか知らない)、店の面した通りの名が物語じみていて詩に必要なプロローグが揃っていたこと。そんなところからここでやりたいと心に決めた。スタッフのStephもチャーミングな人だ。今はふたりで店を切り盛りしている(スタッフをひとり募集している。希望者はぜひ)。Annaは、以前「Hannah Zakari」で働いていた。実は昨年の滞在中、Rachaelとは数分しか話していない。ぼくのこの店の好印象は、店頭で長く話したAnnaの希望に満ちた明るい人柄のせいだと思う。ぼくの帰国後、彼女は店を辞め、ワンウェイチケットで国外へ、Australiaをはじめ、数ヶ月海外を旅した。久しぶりの再会を果たした日、Annaは彼女の印象そのままの、光が降り注ぐような真黄色のジャケットを羽織っていた。夢はね、サステナブルな小さな家を木で建てて、アルパカを飼いたいの、と熱弁していた。再会した日の数日後、彼女はフランスへ旅に出た。もちろんワンウェイよ、と前だけを見て。今回初めて出会ったのは、Mary。週末にはパブ客と観光客がごった返すGrassmarketに、彼女の店「MARY’S MILK BAR」はある。毎朝30分の道のりを歩いたら、およそ10種類のアイスクリームを作る。ラインナップは毎日違うの、と尋ねると、もちろん、と自信満々に答えた。Annaがここではないどこかを見つめている同じ時間、Maryはここで毎日アイスクリームを作る時間を愛している。人間は生きものなのだと改めて思う。北へ南へ遷移する植物もあれば、ただただひとところに淡々を棲息する鳥もいる。どちらがよいか、よかったかという話ではない。世界はそうして生きている。無料のWi-Fiがつながらなければ携帯も使えず、にもかかわらず地図もガイドブックももたないぼくを、Adamが海へ連れて行ってくれた。古城を訪ね、海辺の道を歩き、塔の上から街を眺めた。彼は、ぼくがいま部屋を借りているTommyの友人。昨年の滞在で知り合った。個展の告知にも協力してくれて、至れり尽くせりだ。そんな彼が仕事を辞めたのは3月。日本へ行くということは聞いていたけれど、最初の宿が安曇野の「地球宿」だと知ってたまげた(松本も一緒に回ろうと思うから、松本の皆様、そのときはよろしく)。すでに大海原での航海を愛しているAnnaとはちがって、Adamはいま大きな船出に向けて荷造りをしている段階だ。彼の興奮や緊張、期待や不安を、Portobelloのカフェで話しながら感じた。彼の携帯電話には、日本語のテキストや覚えた漢字リストがたくさん詰まっている。ぼくにはそれが、日本への好奇心、日本への熱い思いに重なってみえた。ぼくは願う。日本が、こんなふうに好いてくれる人の思いに、確かに応えられるような国であってほしい。

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