絵本『かたりべからす』出版

 

 

たとえどうしようもない世界でも、「いまここに自分があること」から決して離れないでおくこと。自分の存在感を失わなければ、この世界が悲しいだけじゃない、切ないだけじゃないことも分かってきます。ぼくらにはまだそういう生きかたも残っていると思うのです。(本書「あとがき」より一部抜粋)

 

絵本を出版しました。絵本の名は『かたりべからす』。副題には「世界の愛しかた 伝えかた」と添えました。作・絵ともに、ウチダによるものです。

企画を環境文化NGOナマケモノ倶楽部が、そしてゆっくり堂が発行してくれました。最近では多くのひとが、団体の世話人である文化人類学者で、昨今の日本のスロームーブメントのしかけ人でもある、辻信一さんを知っているのかもしれません。

この絵本を初めてつくったのは4年前。9.11同時多発テロ以降の世界の落ち着きのなさを肌に感じて、ある詩のイベントを始めたのがきっかけでした。その頃縁あって知り合った辻さんは、この絵本を世に出したいと言ってくれていました。あれから4年後、本当にこうしてかたちになったことを嬉しく思います。しかも、辻さんが英訳を、そして出版に寄せてコメントを書いてくれました。半年遅れの出版をじっくりゆっくり待ってくれた、馬場さんをはじめとするナマケモノ倶楽部事務局の皆さんにも感謝。ありがとうございます。
どんな絵本ですか、と聞かれて、ひと言で答えるとしたなら、いまこの世界を生きるのにどうしたらいいんだろうという問いに自ら答えてみた、その自問自答を吹き込んだ絵本、と言おうかなと思います。

ゼロからスタートする時代。競い合って積み上げてゆく時代。興奮の極みを味わう時代。時の流れのなかにはさまざまな社会や世界が現象として起こるけれど、たとえばぼくが生まれて育ったのは、少しずつ少しずつ下ってゆく時代でした。耳の奥に雪崩の前兆のミシミシという音を感じて送る時代。テレビのブラウン管から、大人たちの表情から、同世代の倦怠から、ぼくはその音を聴いて、ずいぶん怖がっていた気がします。「希望」よりももっと現実的で、「絶望」とどうにか戦わずに済む、それでいて真実味のある解釈を欲していました。そういう「ぼく」に、この本は、ぼくの手でもって送った、ひとつのメッセージです。

 

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