詩集『空き地の勝手』制作秘話 1

詩集『空き地の勝手』を印刷してくれたのは、してきなしごとがオフィスを構える長野県松本市で、2011年に創業60年を迎えた「藤原印刷さん」。東京・神田に支社を持ち、大手出版社の書籍(絵本から教科書までさまざま!)の印刷をメインにしながら、県内企業のパンフレットやカタログ、学生が制作するフリペーパー、そして電子書籍まで手がけています。

(いま気づいたけれど、社屋写真を撮っていない!追加で後日掲載します。。汗)

お世辞抜きに、今回の制作では、藤原印刷さんにお世話になったのです。見返し紙に使う洋紙を選ぶ際には紙見本を貸していただいたり、打ち合わせたいことがあるとオフィスまで来てくださったり。至れり尽くせり、感謝し尽くせません。そして、詩集『空き地の勝手』印刷の日、その様子を見てみたいのだけれど、と申し出ると、快諾!藤原印刷の社屋に隣接する印刷工場にお邪魔してきました。その作業風景を一部掲載します。

とその前に。

そんなぼくのさまざまな相談を一身に引き受けてくれた、この人の紹介を差し置くことはできません。藤原印刷、営業の菊池さんです。

 

 

工学部出身の菊池さん。藤原印刷に転職する以前から、本そのものはもちろんのこと、文字組やデザインが好きだったのだそう。紙や印刷加工についてぼくが繰り出す数々の要求に応えてくれるそのさまが、とても素敵でした。

というのも、「作品は作者が手がけるもの。本は作者、編集者、デザイナー、印刷屋、本屋、読者が手がけるもの。」とぼくは理解していて、印刷を印刷会社にお願いするのであれば、紙の選定や印刷手法、本の体裁まで一緒に企画ができるくらいの恊働作業がしたい、と思っていたからです。いっぽう、菊池さんも「印刷会社の営業として、単に仕事を獲ってくるだけでなく、一緒に作るところまでかかわりたい」と思いながら現在の仕事に就いている方でした。まさに、願ったり叶ったり、です。

しかも、実は、当初、詩集『空き地の勝手』の印刷は、ネット検索で出てくる印刷通販の印刷会社数社のなかから条件の合うところで、くらいにしか考えていませんでした。ところが、予算をオーバーしていたり、細やかなコミュニケーションがとれなかったりして、断念。そんなとき、地元の印刷所でできないかという考えが頭をよぎり、探したうちの一社が藤原印刷でした。だから、棚からぼた餅、逆転満塁ホームラン、だったわけです。

これまで広告デザインの仕事のなかで幾度となく目にし、自らもそうありたいと願っていたありかたのひとつ「地産地消」。詩集出版を通して「地産地消」を実現できたことが、ぼくにとってとても大きな喜びでした。

 

 

そんな藤原印刷との出会いがあって誕生した詩集『空き地の勝手』。今度は、その制作工程と、実際に手足を動かし、汗を流してくださった印刷工場のスタッフの方々のお話をお届けします。

 

 

全紙が届きます。相当量の分厚い束を両手に抱えて、この右側にある木製棚に積んでゆくおじさん。普通にざっざっと手早く積むのだけれど、よく考えると、これらはすべてこれから書籍の本文紙になる用紙。折れたり、皺が寄ったり、ズレたりするとマズいわけです。

 

 

 

こちらは本文を印刷する、オフセットの単色両面印刷機(藤原印刷には、大小のオフセット印刷機が9台稼働している)。ローラーには『空き地の勝手』の本文たち。全紙に印字されると、下のように。

 

 

この日、この工程を担当していた方は印刷工30年のベテラン。一緒に工場をまわって説明をしてくれた営業の菊池さんやぼくの質問に、「そうね。うん。」「まあね。」「30年くらいになるかね。」と短い言葉で答えるさまは、まさに「THE 印刷工」。かっこよかった。(かっこよすぎて、気負ってしまって、あんまり突っ込んで話を聞かなかった、弱めの自分 笑)。でも一つ聞けてよかったこと。30年間ひたすら紙とインキと付き合ってきた今、この仕事をどう感じているんだろうと尋ねると、「やっぱりそりゃ、楽しいと感じていないと、30年もやらないよ。」と。楽しんで働く。美しいなあと嬉しくなりました。

 

 

 

 

そしてこちらは表紙印刷。写真は、印刷オペレーターの山田さん。印刷範囲のズレがないか、想定している色合いが再現できているかなどをチェックしています。印刷したら目視でチェックをし、右側のモニターで微調整を加えてゆきます。しかも印刷の途中、何度かこの作業を繰り返します。というのも、機械とはいえ、部数を印刷しているあいだに微妙なズレが生じうるからだそう。機械化・プログラミング化されているようでいて、肝心要なポイントは「人の目」が物を言うわけです。山田さんはこの仕事に就いて、4年目。「15年、30年というベテランがいます。まだまだですね」と仰っていました。

 

 

 

これは、印刷工場のホワイトボードに貼られていた社訓。印字されたテキストも然ることながら、墨字の「心刷」と、手書きで書き加えられた「最高のチームを今、つくろう」がグッときました。

よくある「今月の営業利益○○万を目指そう!」には(申し訳ないことに)ぼくの心は響かないけれど、紙面に文字を印刷するその全プロセスに携わるスタッフたちの「最高のチームを今、つくろう」には、なぜか心が揺さぶられました。

 

藤原印刷は、昭和30年(1955年)、現社長のお母様が、女性タイピストとして、一台のタイプライターだけをもとに自宅の片隅で立ち上げた会社(当時は「藤原タイプ社」)。「一文字一文字に心をこめ、一冊一冊を大切にして本をつくる=心刷」の社是は、創業時から、時代を超えて、引き継がれたもの。

とはいえ、その思いが社員に浸透するか否かは、その会社の文化やそこで働く人たちのありかた次第だと思います。印刷の相談を快く受けてくださった営業の菊池さんから、丁寧な書籍に仕上げてくれた工場の方々まで、皆さんの前向きでワクワクする空気には、感服してしまいました。

取材を終えて帰る道すがら、あんなことも聞きたかったなあ、ともっと話したい、聞きたい衝動に駆られました。チャンスがあれば追跡レポートができたらと思っています。

 

 

 

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